
未来世界≒ゲーム世界
2018年公開のスピルバーグ監督の大ヒット映画「レディプレイヤー1」では、フルダイブ型VRゲーム「オアシス」が多くの人々が暮らす第2の世界として現実世界と共存しています。オアシス内ではプレイヤーの気分次第でファンタジー風やアニメ調などの「アバター」に乗り換え、メカゴジラやガンダムに乗ってバトルを行っています。流石ハリウッド映画ともいえる内容ですが、今ある様々な技術を結集したとしてオアシスのような世界の構築は可能なのでしょうか?
加速するゲームエンジンの進化
ゲームエンジンとはファイナルファンタジー7リメイクや、フォートナイトなどのゲームを作るときに基となるシステムの事で、物体の落下や爆破、水のシミュレーターなど、ゲームを作るのに必要な基本的なエンジンの事です。アセットと呼ばれる岩や建物、そしてベースとなるキャラクター等を組み込むことで、比較的すぐにゲーム世界の構築をすることが出来るので、以前よりもゲーム開発のコストを大きく削減することが出来るのようになりました。
大手ゲームメーカーは独自のゲームエンジンの開発を行ったりもしていますが、最近はEpic社の提供するUnreal EngineとUnity Technologiesの提供するUnityが2大ゲームエンジンとして圧倒的に利用されています。それぞれ得意分野がありますが、ざっくりでいうとUnreal Engineはよりハイグレードなグラフィックスを求めるゲーム、Unityは開発の容易さと対応する端末が多い事もあってモバイルゲームやカジュアルなコンシューマーゲームに採用されているようです。(UnityもハイクオリティなCGのゲームを作ることは可能です)
これまでのゲーム内のドラマシーンでは、CGの見た目をよりリアルにするため、プリレンダリング(事前に時間をかけて作成)されたCGが使われていましたが、ゲーム機やパソコンなどの性能が上がったため、現在はリアルタイムレンダリング(リアルタイムに作成された)動画をそのまま使うようになりました。これによって、キャラの装備によってドラマシーンの装備が変わったり、ドラマシーンでもコントローラでキャラを動かせたり出来る為、以前よりゲームへの没入感が上がりました。
また、CGのリアルさもかなり上がってきていて、昨年発表されたUnreal Engine5では、見た目の凄さもけた違いに良くなった上に、水のような流体、落石のような固体、そしてあらゆる生体の動きのシミュレーション、そしての光や煙などのシミレーションも現実と見違えるほど向上しています。更に環境音の再現率も向上していて、360度の方位から正しく音が聞こえたり、洞窟内であれば正しく反響されて聞こえたりするようになります。
このレベルのゲームが楽しめるようになります。
利用用途が広がるゲームエンジン
リアルの世界でのあらゆる動きなどをシミュレーションできるようになったゲームエンジンは、ゲーム以外の用途で活用される事も多くなってきました。
ハリウッド映画では様々なCG映像を作るのに多くの時間とお金を割いていましたが、ゲームエンジンでリアルタイムにトライアンドエラーを行いながら映像が作れるようになったため、超ハイクオリティな動画をスタジオで低コストで作成できるようになりました。(しかも個人利用の場合、Unreal EngineもUnityも無料で利用可能です)
また、UnrealEngineが最近発表したMetaHuman Creatorを使えば、誰でも無料でリアルなキャラクターを作成できます。ここまでリアルだと今後はゲームキャラクターへ感情移入することになるでしょうね。そしてAIボットとこの見た目を組み合わせたら、孤独な老人の話し相手になるのでしょうか?少なくても、リアルな人型ロボットを現実世界で作るよりも、より低価格、そしてより近い将来に実現が可能でしょう。
建築業界では、今まで無かったような構造の建築を行う時の建物の強度をシミュレートしたり、どのような工程で建築を行えば効率が良いかを実際にシミュレートするのにゲームエンジンが利用されています。VRで完成予定の建物を事前に実際に目で見て、植木の位置を考えたりすることが出来るので、以前に比べて大幅なコストカットが可能になりました。また、安全かつ低予算な重機や工具のトレーニングに利用され始めています。

また医療分野でも利用が広がっています。UnrealEngineとVR技術で様々な分子の組み合わせを試し、その動きをシミュレートすることによって、新薬の開発に役立てられているようです。また、脳手術などの複雑な手術のシミュレーションや研究生のトレーニング等にも利用が進んでいます。

このように、ゲームだけに収まらない範囲で活用されているゲームエンジンは今後どのような使われ方をするのでしょうか?
Unreal Engineを開発するEpic社は「Fortnite」というオンラインFPSゲームを作成、運営していますが、そのゲーム内において、本来のゲーム以外での利用が加速されています。例えば2020年には米津玄師が「Fortnite」内でライブを行って話題になりました。Epicでは「Fortnite」のユーザーのゲーム体験のリサーチを常に行い、「Fortnite」内でのコミュニケーション機能を追加しています。これによりユーザーはゲーム内でただ他の人と喋るだけの時間が増え、次世代のSNS、メタバースとして機能してきています。また、先日は東京農大が夏季オープンキャンバスをFortnite内に開校するなど、教育の場としてのゲームワールドの利用も進んでいきそうですし、おそらくFortnite内で仕事を行っている人も出てくるでしょう。ちなみにあまりにも急スピードで開発が進んでいて、「Fortnite」スタッフが激務に追われているらしいのですが、それはまた別のお話。
このようにゲームエンジンはゲームとしてのエンタメ性をもった現実ではありえない、でも感覚的には凄くリアルな世界をデジタル世界に構築することが出来るシステムになりつつあります。これに今後開発されるであろう更に高度な「視覚」「聴覚「嗅覚」「味覚」「触覚」の五感を再現するデバイスを組み合わせる事によって、人間はデジタルとリアルの境目を見分けがつかなくなっていく事でしょう。そしてそうなったときに、「リアルワールド」より自由で楽しく、年齢、性別、人種、そして肉体的ハンディキャップのない「バーチャルワールド」で人々が過ごす事を好むようになるのは時間の問題ではないでしょうか?
もし実際にそうなった場合、あなたはどちらを選びますか?「リアル」?それとも「バーチャル」?

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